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アジアに密着 Asia-Wach Network

    
           



#1 朝鮮社会科学院歴史研究所 ゙喜勝(チョ・フィスン)所長  


゙喜勝・歴史研究所所長

 「朋あり、遠方より来る。また楽しからずや」。゙喜勝歴史研究所所長は「論語」の一節を唱え出迎えてくれた。底冷えのする平壌。
小雪が舞い窓ガラスは凍てついていた。そして、所長は「近くて遠い
国、本当に日本は遠い遠い国になってしまいました」と漏らした。

 日本語の通訳を通じての会話だったが、所長の醸し出す雰囲気から日本語も達者だと感じた。「先生は日本語をどこで勉強なさったのですか」との問いかけに゙所長は一瞬ためらい、そして吹っ切るように「実は私は日本出身なのです。20歳のとき、1972年に新潟から帰国船に乗って祖国に帰ってきたのです」。それからの40年の歳月。「日本からの帰国者」のレッテルは多かれ少なかれ苦節を味わってきたに違いない。
 だがこの学究の徒は日本の著名な学者(騎馬民族征服王朝説の江上波夫氏、東京芸術大学元学長の平山郁夫氏ら)の知遇も得て国を代表する学者としての地位を築きあげてきたということだろう。専門は朝日歴史関係、特に古代史の両国交流の歴史であるが、近代、現代の両国関係についても研究をひろげ北朝鮮外務省の朝日関係の政策立案に重要なアドバイザーの役割も果たしているとみえた。
 「両国関係は現代は歴史上最も関係が冷えている状態といえます。これは実に悲しいことです。古代から両国関係は密でした。日本の天皇のルーツは朝鮮半島にあるとも言われるくらいじゃないですか。平成天皇自身も「桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると続日本紀に記されている」と、11年余前に述べている。宗教、文化、習慣、儀式織物とどれをとっても朝鮮半島と日本との切っても切れない関係があるのがわかります。その緊密な歴史的関係は誰も否定できません」。
 ゙所長との話し合いは古代史から中世へ、近世からまた古代史へと縦横に展開していった。そして現代の日朝関係になると、頬を紅潮させこの温厚な親日派から鋭い言葉が飛んだ。「安倍内閣に何ができますか。朝日関係は冷え切って殆どゼロです。日本の独自制裁って、我が共和国にどんな圧力になりますか。殆どゼロがゼロになったってどうってことない、というのは彼らでさえ分かっているはずです。圧力強化で拉致問題の解決へ向かう可能性はそれこそゼロです。相手にもなりません」

 北朝鮮は昨年4月から6月にかけ複数のルートを通じて「日本人戦没者の遺骨が多く見つかった。遺族への遺骨返還や慰霊のための訪朝を認める」と日本側に働きかけてきた。それは8月の日本各社(共同通信、NHK、民放3社、毎日新聞等)による現地取材として実現した。この遺骨収集と墓参団の受け入れの責任者も゙所長であった。
 「日本の取材班は機会まれな地方取材のさい、いまなお木炭車が走っているのを見ると物凄く興味を示して撮影しだした。私はあるものを隠す必要はない、撮りたいならどうぞ、と言った。日本のテレビでそれが繰り返し放送された。共和国内でいろんな声が伝わってきた。なんで我が国の遅れた部分を強調して紹介したのか、というわけです。私は学者であるが、同時に所長の立場で行政管理もしなければならない。ストレスもありますよ」と吐露する一幕もあった。
             (アジア・ウオッチ・ネットワーク代表 宇崎 真 / 2013年1月)

#2 薄れる日本の存在  


゙喜勝・歴史研究所所長

北京空港の高麗航空機
 3年前「安重根烈士百年記念行事」が北朝鮮、韓国の共同主催でおこなわれた。1990年10月中国・黒竜江省ハルピン駅で朝鮮総督府初代総督であった伊藤博文を射殺した安重根を称え、10.26(暗殺事件)から翌年処刑(1910.3.26)までの4ヶ月間を「反日共同闘争期間」とすることが呼びかけられた。このときの北側の代表団にも社会科学院歴史研究所・゙喜勝所長の名前があった。
 つまり、゙喜勝所長は「親日家」であり「反日戦士」でもあるわけ
だ。このあたりの所長の事情と認識構造を理解すると、日本人にとって彼ほど北朝鮮を身近に感じさせる存在はそうはいないと思えた。
 話し合いの最後に彼はぽつりとしゃべった。「私の兄弟、家族はみなまだ日本に在住しているのです」。

 両国の冷え切った関係は次の数字によく現れている。朝鮮国家観光総局の幹部によれば、昨年訪朝した日本人は約200名、つまり週に3〜4名であった。
 外国人観光客は昨年は計10万人だが、その75%は中国人、次いでユーロ圏、東南アジアからの訪問も増加しているという。宿敵・アメリカ(朝鮮戦争はいまだ休戦状態であり終結にいたっていない。そのことを正しく認識している日本人がどの程度いるだろうか)の観光客も400〜500名に増えたというのだ。

 日本人観光客は1995、96年には3,000人を超えていたというから現在はその15分の1以下にまで落ちた。北朝鮮からの海産物、松茸も輸入禁止、学術交流もストップ、人と物資の往来は「平時」では最低の水準にある。
 4年前に平壌外国語大学日本語科を卒業したガイド氏によると、同期生は5人、他の4人は日本語とは無関係な仕事に就いているという。当然の勢いで外国語を学ぶ学生の多くは中国語へ、そしてついで英語に向かう。日本語教師は転職を余儀なくさせられている。
             (アジア・ウオッチ・ネットワーク代表 宇崎 真 / 2013年1月)

#3 労働新聞の論客、宋美蘭(ソンミレイ)論説員  


宋美蘭・論説員

 党機関紙「労働新聞」に宋美蘭論説員は1月末の連日、政論(政治論評)を発表した。同じ論説員が続けて執筆することは極めて異例で宋論説員が特別な地位にいることが想像できる。
 北朝鮮研究の専門家やウオッチャーの多くは、宋美蘭署名入りの論説に注目してきた。長年にわたって後継者の存在を示唆する記事を執筆してきたからだ。

 最新の政論の要約はこういうものだ。「…家に帰れば子供たちでも百科事典で、国連安保理(国際連合安全保障理事会)を調べ、国連安保理決議案という言葉について勉強し、かつてないほど関心が高まっています。米国は国連安保理を使って、1950年に朝鮮半島で起こした侵略戦争を合法化し、21世紀にはイラクを同じ方法で侵略、多くの罪のない民間人を虐殺して、あの国を血の海で汚したことを人々は覚えてています。しかし、一部の人々は、米国の核兵器やミサイルには目を閉じ、朝鮮の人工衛星打ち上げには大騒ぎをして、南朝鮮(※韓国…注釈筆者)の人工衛星打上げを黙認しています。我々の偉業の正当性を確信し、自主権を守護するための正義の道に進む朝鮮の軍隊と人民は、敵対勢力を懲罰し、最後の勝利者になる道を選択しました。他に選択肢はありません。…」

 この政論は核実験実施の声明(1/23 )のあとで1/28からの全国党細胞書記大会の前日、というタイミングで出されている。全土での意思統一の事実上の「必読文献」のひとつとみてよい。
 「あなたの名前は、北朝鮮研究者のなかではつとに有名であることをご存じですか」と宋美蘭論説員に尋ねた。彼女は「初めて聞きました、そんなこ と…」と小声で答え顔を紅潮させた。宋美蘭解説員の印象は、意外だった。
             (アジア・ウオッチ・ネットワーク代表 宇崎 真 / 2013年1月)

#4 展望の見えない日朝関係


銀河3号
 宇宙衛星ロケット「銀河3号」(国際的には「弾道型長距離ミサイ
ル」だが)の打ち上げから3回目の核実験声明で北朝鮮は重大な選択をしようとしている。中国を含む国際社会の強い警告をも無視して強行するのか。
 筆者は強行説をとる。核実験をやった上で金正恩体制はこんどはかなり思い切った柔軟路線、経済再建の大号令を発するのではないか、とみる。宇宙衛星、核保有国という国力を内外に誇示し、その大パワーを経済再建に向ければ出来るのだ、という「強大国家論」を打ち出すのだろう。

 国際世論が北朝鮮の核実験で沸騰すれば、日本政府の要求する拉致問題の解決はすっかり後景に退いてしまうだろう。元々拉致問題に関する日本国内の世論と国際世論との温度差は大きい。
 とりわけ、中国、北朝鮮、韓国とは戦争責任、歴史認識の問題を抱えている上によりホットな領土領海問題を抱えてしまった。彼らの目からすれば、日本は過去の侵略加害者としての責任を潔く認めず、ときに前言も翻す国と映る。
 冷静、客観的にみて、アジアのなかで過去の侵略戦争の責任という重大な負の遺産を背負ったままその清算には手をふれず拉致問題をいくら声高に相手側に叫んでも実質進展は難しい。 (※2013年2月5日記)

 2月12日、北朝鮮は予想通り核実験を強行し、「小型、軽量化した原爆をつかった地下核実験」と北側は発表した。さらに第4回目、5回目の核実験や「銀河9号」まで長距離弾道ロケット発射を続けていくとの姿勢を見せている。あとはその時々の内外の状況を読みながら、どう決断するのか、筆者は、北朝鮮は今後かなり柔軟姿勢に転じ国際社会に対処していく、とみる。
 小型核兵器を1万キロ飛ばす技術、能力を世界に示すという目標は達成したわけで今後のさらなる核実験、長距離ロケット発射は、米国、中国等の反発、国際的圧力の増加を招き、「費用対効果」の原理を考慮せざるを得ない。北朝鮮の指導部はそこを冷静、客観的に分析して判断を下していくだろう。

 一方、日本側は在日朝鮮学校への補助除外や祖国訪問(訪朝)した総連幹部の再入国禁止といった独自制裁を発動させた。この独自制裁はなにを目的としているのか。北朝鮮を窮地に追い込み、核を放棄させるためか、それとも、拉致問題のテーブルにつかせるためか。どちらも客観的にみて、その可能性はない。そして、もし北朝鮮が核実験を4回目、5回目とやるなら、そのときの「更なる独自制裁」の中身は何になるのか。朝鮮総連、在日朝鮮人への締め上げ、弾圧に向っていかざるを得ないだろう。日本社会に朝鮮人敵視の風潮を作り、煽るだけではないかと、非常に危惧している。 
            (アジア・ウオッチ・ネットワーク代表 宇崎 真 / 2013年2月)

#5 平壌の公園  




 今回、平壌を訪れて感じたことは真新しい小さな公園の多さだ。この1年の間に設けられたのだろう。凍てつく寒さの中、アパートの片隅にある小さな遊び場では真新しい遊具で子供たちが遊んでいた。
 また、市内ではローラースケート場を幾つか見かけた。冬ならアイススケートと思い込んでいたいが、ローラースケートなら水(氷)を張る必要がなく、一年中楽しめる。
 地元の人の話では、日中は隠居した老人、退勤後は若者や熟年層も公園に立ち寄り、雑談を交わし、娯楽に熱中するという。北朝鮮の中央テレビでも公園でくつろぐ市民の姿を放送した。
 ある労働者はインタビューで「公園は子供だけでなく、大人も喜んでいる」と答えた。「仕事でたまったストレスがここに来れば解消される。私も時間があると子供を連れてきてローラースケートを教え、運動もやっている。本当にいい場所だ。こんなにりっぱな遊戯公園を設けて下さった金正恩元帥に感謝している。」

 日本や韓国では、「弾道弾ミサイル」を打上げ、核実験を実施する「ならずもの国家・北朝鮮」のイメージだけが先行する報道が多い。そこに必ずといってよいほど添えられるのは、「国民生活を犠牲にして軍備増強を推し進めている」という説明だ。
 しかし、こういう事実もある。金正日総書記の急逝後、金正恩第1書記が推し進めた政策の第一歩は娯楽施設の充実だった。昨年、金正恩第1書記は綾羅島に大きく広い人民遊園地を建設した。
 また、「軍隊を動員し平壌市の各区域に人民が休憩を取れる近代的な公園を設けるように」との指示を出している。

 平壌ではローラースケートが流行っている。色鮮やかなスケート靴を履き冬のわずかな日差しを浴びながら親子で滑りを楽しんでしる。日・米・韓などの、危機を煽るような報道をあざ笑うかのように、公園では多くの人が安らぎの時間を過ごすしていた。
 もちろん、いまの北朝鮮は、食料、エネルギー事情は十分とはいえない。しかし、15年ほど前の「苦難の行軍」時代を知る人にとって今の平壌は、その苦しい状況とは別の世界である。人民生活は「苦難の行軍」時に比べると改善が進み、生活は安定してきた。人民も金正恩指導部を信頼していると思われる。公園建設は、指導部に対する人民の支持を高めることに一役を果たしたようだ。 
              (アジア・ウオッチ・ネットワーク 小堀 新之助 / 2013年3月)

#6 たかがアニメ、されどアニメ〜北の漫画にみる杞憂〜  





 北朝鮮のテレビ放送は、平日は夕方5時から始まる。堅い番組だけかと思っている人が多いが、漫画(アニメ)も放送される。今回も幾つかのアニメ放送を興味深く見た。漫画は、その時の世相を反映させるからだ。

 面白かったのは「トラを負かしたハリネズミ」だ。故金正日総書記がアニメ製作者に語った逸話を基に創作されたと言われている。製作されたのは数十年前だが、いまでも、子供だけでなく大人にも人気のあるアニメだ。ストーリーはこうだ。

 ある村で一番の力持ちかを決める試合が行われ、明け方から多くの獣が集まる場面から始まる。
 まずはクマとイノシシが力比べをする。ところが、試合の途中「山中の王」だと自称するトラがキツネとともに現れて「試合をする必要もなく、この世に自分に勝つものはいない」といばる。
 ほかの獣はその威勢におののいてブルブル震えていたが、ハリネズミが出てきて「誰が勝つか、負けるかは試合をやってこそ分かる、言葉だけでは決めない」と言い放った。 
 怒ったのはトラで、ハリネズミを踏みにじろうとした。しかし、体を丸めて栗のいがのようになったハリネズミの背面の針に足元を刺される。それでもトラは、むやみに襲い続ける。
 ハリネズミはトラの鼻に力いっぱい針を刺す。ハリネズミの攻撃にノックダウンされたトラは遁走する。へとへとになったトラは、自分の前に落ちた栗のいがをハリネズミと間違えてびっくり仰天。栗のいがに向かって、許してくれと平伏哀願する始末だった。

 このアニメ、北朝鮮の人々は自分たちをハリネズミにたとえてい
る。小柄な身であっても自分の力を信じ武装するなら、いかなる強敵をも打ち勝つことができると確信している。つまり、アニメに登場する獣の形象を通じて大国に対する幻想を捨て、自らの力を培わなければならないという思想だ。
 北朝鮮の風刺によくあるが、主に弱い獣が知謀に富み、利口なので勝者となる。いま、北朝鮮をめぐる世界情勢はもっとも危険な状態と言える。まるで「トラを負かしたハリネズミ」のように、大きなものと小さなものの真剣勝負が目の前で行われている。

 北朝鮮の国防委員会は、ロケット打上げに対する国連安保理の決議に対して「アメリカとは言葉ではなく、もっぱら銃でもってけりをつけなければならない」との声明を出した。「ハリネズミがトラに勝つなんて所詮、漫画の世界。トラがハリネズミに負けるはずがない、と大国やその周辺国が過信している」との心配は杞憂だろうか。
 少なくとも”ハリネズミ”はその気になっている。
 
     (アジア・ウオッチ・ネットワーク 小堀 新之助 / 2013年4月)


#7 平壌の空気



平壌火力発電所の煙
 平壌の空気は澄んでいて、空気が美味しい。快晴の朝、市内を散策すると頭もすっきりする。古くから「静かなる朝の国」と言われてきたのも分かる気がする。
 なぜ、平壌の空気は澄みきっているのか。市内を走る車の数が非常に少ないからだろう。これは北京と比べると一目瞭然である。
 訪朝する際、北京で査証を受領するため、北京に1泊しなければならない。北京の淀んだ空気は、一晩で喉が痛くなる。よけいに平壌の空気が爽やかに感じる。

 平壌を走る車は以前より増えているらしいが渋滞などめったにない。つい「エネルギー事情が逼迫しているので交通量が少ないだけ」という見方に傾きがちだが、北朝鮮の知人は「環境保護の結果だ。国家的に環境保全運動が高まり、さまざまな交通規制が講じられているからだ」と反論する。
 平壌では、自動車の運行時間は基本的に朝8時30分から夕方6時30分までと制限されている。さらに、日曜日は全国的に自動車の運転は禁止。この規制は、市民の足として人気の高いバスも含まれ、規制を受けないのは排気ガスの心配がない、路面電車とトロリーバスだけだ、という。

 この交通規制は世界水準でも厳しいものだろう。しかし、気になることが一つある。それは平壌火力発電所の煙だ。黒々と立ち上がる煙は、電力がそこそこに供給されていることを物語るが、おそらく煤煙の規制・処理は十分ではないと思う。煙が目に染みる。 
            (アジア・ウオッチ・ネットワーク 小堀 新之助 / 2013年4月)

#8 平壌交通事情  




 平壌市内の主な乗り物には、地下鉄、バス、路面電車がある。そしてトロリーバス。かつては東京にもあった懐かしい「庶民の足」だ。
 平壌市内のあちこちに張り巡らされた架線に沿って動く。最近はタクシーも増えたが、まだ定着しているようには思えない。

 地下鉄やバスの運賃は非常に安く全区間一律料金で5ウォン(約5円)。一方、タクシーは2キロ、100ウォンだから、市民にとってはちょっと贅沢な乗り物だ。

 平壌は市内の中心部を貫流している大同江を境に東平壌と西平壌に分けられ、地下鉄は西平壌地区に展開されている。外国の大使館が多い東平壌地区で、地下鉄以外の乗り物(バスや路面電車、トロリーバス)が朝から晩まで、運行しているのはちょっと意外だった。

 訪朝していつも目にする光景は、停留所の長蛇の列だ。朝夕のラッシュアワーには20、30メートル以上の列ができる。驚くのは、平壌市民の「秩序と忍耐」だ。アジアの国々では、列車やバスが到着すると我先にと乗り込む光景をよく目にする。この点で秩序正しく乗り降りするのは北朝鮮と日本が双璧、と思う。平壌では弱者優先のマナーも定着している。

 トロリーバス。レトロな乗り物だ。施設と車両の老朽化だろうか、立ち往生しているトロリーバスを見かける。しかし、環境保護の面からするとトロリーバスは、地球に優しい乗り物ではないだろうか。
 だが、残念ながら外国人が利用できる公共交通は限られ、地下鉄と路面電車の一部区間だけだ。トロリーバスにぜひ一度乗ってみたいものだ。

(アジア・ウオッチ・ネットワーク 小堀 新之助 / 2013年4月)

#9 北朝鮮式猛暑克服法  



捕身湯専門店
 猛暑もいつの間にか過ぎ去り、秋の気配が訪れ始めた。この夏の日本の気候は異常だった。殺人的とも言えそうな酷暑のあとには豪雨。「これまでに経験したことのない…」といった表現が何度も使われ
た。

 北朝鮮の夏も異常だった。一カ月以上も続いた豪雨の後、日本と同じような猛暑が北朝鮮を襲った。しかし、北朝鮮の人々は「三伏」の時期と言われている夏の季節に慣れているのか、猛暑にも案外、気楽に対処しているようだった。
 「三伏」は最も暑い期間中の「極暑の3日間」のことである。三度伏せて暑さを避けなければならないという意味だ。暑くなると木陰や涼しい地下鉄に入ったり、水の中で泳いだりして暑さを避けるのが、庶民の知恵から生まれた習慣だ。

 そして、庶民はもう一つ、伝統的な食べ物で猛暑を克服する。補身湯(ポシンタン)と呼ばれる犬肉のスープだ。病中・病後の滋養強壮ばかりでなく、妊婦ら高い栄養が必要な人へのおもてなし料理でもある。香辛料が豊富で、臭みはない。北朝鮮で人気を独占している料理だ。暑い部屋で熱い捕身湯スープを飲み干すと、猛暑など何ともないという。

 平壌の統一通りに位置している有名な捕身湯専門店は、年中、お昼から夕方まで満席だ。地元の人だけでなく、中国人ら訪朝外国人にも人気がある。

          (アジア・ウオッチ・ネットワーク 村上知実 / 2013年9月)

#10 急増するタクシー  



 #8「平壌交通事情」を書いて半年が過ぎた。この間、平壌の交通機関で大きく様変わりしたものがある。タクシーだ。

 半年前、「タクシーは2キロ、100ウォンだから、市民にとってはちょっと贅沢な乗り物だ」と書いた。贅沢なのでまだ多くの市民は利用していない、という意味もある。
 しかし平壌ではいま、この贅沢な乗りものだったタクシーが急増している。7月頃から車の色を緑と黄色で飾ったタクシーが現れた。日本では当たり前だが、ボディーカラーを見れば運営するタクシー会社(国営)がすぐ分かるし、街中で非常に目立つようになった。

 北朝鮮では燃料事情と環境保護の名目でタクシーや自家用車の運転は制限されていた、と聞いた。しかし、平壌市内には深夜までオープンしている遊戯施設や24時間営業のカフェが登場している。
 これらの施設で遊ぶ人や働く人も多くなり、バスや市電だけではさばききれない。そこでタクシーの増加となったのだろう。

 東南アジアにありがちな、車内は不衛生なうえ、法外な料金を請求する「ぼったくりタクシー」は、平壌では見当たらない。平壌のタクシー・ドライバーはネクタイ着用で礼儀正しい。日本のハイヤーに近い。平壌市民のタクシー利用率は急増している。

          (アジア・ウオッチ・ネットワーク 小堀 新之助 / 2013年10月)

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