#12 ヘアスタイル事情
「北朝鮮当局は男子大学生に、金正恩第一書記と同じ髪型を要求している」――これは、英国BBCが3月末に流した「嘘(エイプリルフール)・ニュース」だが、確かに金正恩第一書記の髪型は故・金日成主席を彷彿とさせ、若さのなかにも威厳を感じる。
そして、平壌では男性のヘアースタイルに熱い視線が注がれているのも事実だ。
平壌でガイドに髪型の規制があるのか聞いた。答えは、「規制はないが流行はある」だった。
その「流行」、今は若者ではなく、40、50代の中年男性がヘアースタイルに関心を寄せている、とのこと。言うなれば、働き盛りの中年男性が若作りに励んでいる。
北朝鮮では「ペキ(覇気)ヘアー」と呼ばれる髪型が流行で、若者のシンボルだった。しかし、最近は中年男性が、この髪型を取り入れるようになり、街の雰囲気まで変わり、「若さ」が感じられるようになった、とか。
(アジア・ウオッチ・ネットワーク 村上知実 / 2014年4月)
#14 牡丹峰とミツバチ
平壌の牡丹峰(モランボン)は澄み切った空気と緑の静寂に包まれた公園だ。市民の憩いの場所である。6世紀半ばの高句麗時代に建設されたといわれ、乙蜜台(ウルミルテ/楼亭)、七星門(チルソンムン)、浮碧楼(ブヒョクル)などの遺跡がある。
浮碧楼は大同江の澄んだ流れに浮いたように見えることから、その名が付いたという。東空に浮かび上がる月を浮碧楼から仰ぎ見るのが、一番美しいと言われてきた。
「浮碧翫月」は平壌八景の一つになっている。
牡丹峰は「首都の庭園」とも呼ばれ、さまざまな樹木、草花が植えられ、花の競演が楽しめる。この花にミツバチが誘われるのか、養蜂が行われている。養蜂を営む市民に話を聞いた。
Q:(ハン・ミョンイルさん、34歳)養蜂を始めた時期、その量は?
A:養蜂に関心を持ち始めたのは学校(平壌農業専門学校畜産科卒業)
の時からです。3年前から牡丹峰で養蜂を始めました。
当初は少しだけだったけど、 今は巣箱が50を超えました。
Q:(キム・スングァンさん)養蜂を始めた動機は?
A:私は64歳です。定年退職しました。
素晴らしい庭園に咲いて散る花が惜しくて、養蜂を始めました。
周りからは「ミツバチおじさん」と呼ばれています。
Q:市内中心部は環境的に養蜂には難しいのでは?
A:ここは樹木が生い茂っているし、国家政策による緑化も進んでいま
すから養蜂に問題はありません。5月は蜜源植物のアカシアの花が咲
き蓄密させたハチミツを採集します。私のような「牡丹峰の養蜂家」
は20人もいますよ。
(アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 / 2014年5月)
#17 唯一無二の北朝鮮ゴルフコース
ゴルフ好きの願望は、名門コースの会員になり、そこで技術・スキルと社交の幅を極めることだと思う。また、自然の美しさや戦略性の高いコースが「売り物」の世界の名門コースでプレーすることも夢見る。
米国のゴルフ誌などでは、世界のゴルフコースのランク付けを行っている。コース難易度、デザイン、景観、コンディション、雰囲気、などが評価対象になるらしい。
いつもベスト10は米国、英国のゴルフコースが占める。アジアのコースは問題外、といったところだ。
ゴルフ仲間に名門といわれる「○×□コースでプレーした」と吹聴できるのは気持ちが良い。一般のゴルファーが簡単にプレーできないというなら、それは北朝鮮のゴルフ場だろう。
観光で北朝鮮に入るのも、「決意」と「覚悟」がいると考える人が多い。そこでゴルフをやる、のは想定外かもしれない。
そもそも、先軍政治の統治が続く中、北朝鮮にゴルフ場などあるわけはない、と思っている人が多いと思う。
実は北朝鮮にもゴルフ・コースはある。1987年にオープンした「平壌ゴルフコース」。18ホール、パー72、6,800ヤード、フェアウエーは高麗芝、グリーンはベント芝で、外見だけ取り繕ったコースではない。ゴルフ場専属キャディ(女性)もいる。本格的なゴルフコースだ。
このゴルフ場は、平壌の南西に約40キロの台城湖に沿って作られた。どのホールもフェアウェーが狭く、ドッグレッグホールが多いので、正確なショットが求められる。
外国人旅行者もプレーができる。プレー費は25,000円前後(貸しクラブ、靴、キャディー費込み)だから安いとはいえない。
有難いことに、ゴルフ場の近くには龍岡(リョンガン)温泉もある。温泉好きの日本人が日本統治時代に開発した温泉で、塩化ナトリウム・ラドン温泉(ラジウム泉)とか。
外国人旅行者用の温泉コテージは、各部屋に温泉が引かれ高級別荘のような造りになっている。ゴルフの後ゆっくり温泉に浸かると「いい湯だな」とすきっきりした気分になる。
台城湖の絶景を眼にしながら綺麗な空気を吸って、素朴なキャディーとゴルフを楽しみ、高級温泉コテージで宿泊する。北朝鮮のゴルフは、唯一無二のゴルフ場かもしれない。
(アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 / 2014年9月)