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アジアに密着 Asia-Wach Network

    
           



アリラン、「不穏曲(禁止曲)」指定の摩訶不思議  (2013年12月30日)
 

韓国のカラオケでアリランは唄えない?


 かつて、日本民間放送連盟(民放連)は自粛的に「注意歌謡曲指定制度」、いわゆる「放送禁止歌」を設け、このガイドラインに触れる歌
(曲)はテレビ、ラジオでの放送を避けてきた。朝鮮半島に関わる歌では、フォーク・クルセダーズが唄った「イムジン河」(曲・高宗漢、詞・朴世永)が、南北分断の国際的な政治状況が配慮され「放送禁止歌」となった。1983年、この制度は廃止されたが、韓国から似たような話が届いている。

 韓国の一部メディアは、国防部が「アリラン」を「不穏曲」(禁止
曲)に指定したと報じた。韓国では「アリラン」がカラオケで唄えないらしい。カラオケ店で「アリラン」をリクエストすると、「国防部の要請で削除された曲です」と表示される、とのことだ。「アリラン」は、南北統一への願い、民族的感情を奥深く秘めた朝鮮半島を代表する伝統民謡として愛唱されてきた。
 1920年代の日帝植民地時代、「アリラン」は朝鮮総督府が反日感情が高揚することを警戒し「特別禁止曲」に選定している。それほど、
「アリラン」は朝鮮半島の民族的感情と情緒の高揚に大きな影響力を発揮してきたわけだ。

 北朝鮮では「アリラン」が大衆民謡として愛唱され、ギネスブックにも登録された大マスゲームに同じ名前をつけ、外国人にも知られている。韓国でも、「京畿道アリラン」「蜜陽アリラン」「永川アリラン」など地方色豊かないろいろな「アリラン」歌謡が愛唱されている。
 今回の禁止曲への指定は日帝植民地時代を思い起こさせる措置だ。何故、韓国はいま伝統的民族歌謡「アリラ
ン」に「不穏曲」の烙印を押したのか。その心理が分からない。
                  (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )


平壌市民の暮らしぶり @ビール人気  (2013年12月5日)
 


 韓国・延坪島砲撃事件から3年が経つ。朝鮮中央通信によると、延坪島に近い黄海南道で兵士や党幹部、一般市民が参加した周年記念集会が開かれた。延坪島周辺を管轄する第4軍団長は「いかなる敵も撃滅掃討できるという確信をさらに強めた」と強調した。朝鮮半島の緊張状態はいまも続いている。
 しかし、北朝鮮の「国内事情」を腑分けするように見ると「経済重
視」の政策に転じているようだ。

 10月の訪朝の際、平壌で入ったビヤホールでの雑感。北朝鮮の男は酒が好きだ。特に焼酎。日本のようにお湯割りや水割りにはしない。ストレートでガンガン飲むのが一般的だ。最近は、この酒の嗜好が変わってきた。ビールが急激に浸透している。その中でも、「大同江ビール」は大人気だ。
 20年前、初めて訪朝した時に飲んだ北朝鮮のビールは、おいしくなかった。大同江ビールも20年ほど前に誕生したが、味と質が大きく向上した。昨年末、英国の週刊誌「エコノミスト」は、「韓国のビールより大同江ビールの方がはるかに美味い」と紹介し、韓国ビールは面子を潰された形となった。
 大同江ビールの愛飲者拡大に伴い、平壌市内にはビヤホールが増え
た。大同江ビール工場直営のビヤホールは夏冬の季節に関係なく一年中客でにぎわう。直営ビヤホールの売れ筋は7種類の「生ビール」だ。
麦や米の比率が異なる。麦100%のコクのあるビールは男性向きで、米100%ビールは苦味がなく女性に好評だという。

 北朝鮮では日本と違い「清涼飲料」としてビールを販売している。ヨーロッパと同じで清涼飲料に認識されている。大瓶で約100円。大同江ビールは日本でも売れると思う。
                  (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

平壌市民の暮らしぶり A自転車人気  (2013年12月5日)



百貨店の自転車売
 今年の日本の流行語は「ジェジェジェ」、「倍返し」なら、平壌の流行語は「お金は貸せるが自転車は駄目だ」だろう。これは北朝鮮での自転車普及を物語ると同時に、自転車は自分の分身と同じように大切する世相の反映である。

 北朝鮮では、自転車を乗ることのできる道路は制限があった。いまは、すべての道路で自転車走行は可能だ。自転車専用道路も作られ、自転車の安全走行に力を入れている。
 旧知の日本語通訳に「ガソリンが不足しているから自転車の普及に力を入れているのか」と意地の悪い質問をしてみた。通訳はガソリン不足も認めたが、「それよりは自転車の走行は、環境保護と健康増進につながる」を強調した。
 今年の国際商品展では自転車コーナーに市民の人気が集まったという。そして、いま市民の好奇心は新型の「電動アシスト自転車」に移っている。平坦な地形の平壌やエネルギー事情を考えると、「電動アシストは合わない」と思うのだが、市民の購買欲を抑えることはできないようだ。


 (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

北朝鮮式「栄耀栄華」(えいようえいが)   (2013年11月6日)
 


 メディアの意図的な報道に接している日本人からみると「栄耀栄華」という4文字は北朝鮮のイメージと結びつかないだろう。
 しかし、現地に足を運び、自分の眼で見て、雰囲気を肌で感じると、ふと北朝鮮は国民が栄耀栄華を感じられるように国作りに取り組んでいるのか、と思うことがある。

 最近、この国では各種のプール、水族館、野外のアイス・リンク、ヘルス・センター、船上レストランなど、水(氷)関連の娯楽施設の建設が続いている。間もなく、東平壌地区には大規模な室内・野外プールが完成する。
 平壌の郊外では一般市民向けの乗馬クラブが、また、中部の山岳地帯では国際競技も開催可能な「馬息嶺スキー場」が建設中である。地方でも平壌の文化・娯楽施設をモデルにしたレジャー施設の建設構想が練られている、という。
 この構想が実現すれば、一年中好きな時に水泳をして、スキーや乗馬といった、スポーツを堪能できるわけである。北朝鮮の人々は、「栄耀栄華的文明国」の建設は、夢ではなく現実的な発展の結果だ、と主張する。みんなが同じように豊かに暮らし、高い水準の教育を受け、どこにいても文化的生活を享受するのが「北朝鮮式栄耀栄華」というわけだ。

 北朝鮮全体を見れば、食糧難は解決されず、エネルギー事情は逼迫し国際的な支援を必要としている。しかし、国民の生活水準向上の努力は実を結びつつある。


    (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

北朝鮮投資の魅力とリスク  (2013年10月6日)





富強製薬会社 全勝勲・社長
 北朝鮮は魅力ある投資先なのか。日本政府は「拉致問題の未解決」を理由に独自の経済制裁を実施しているので、日本企業の北朝鮮進出は、現時点では難しい。しかし、友好国・中国は別として、欧州、中東の幾つかの企業は北朝鮮を「魅力的な投資先の一つ」と考えているようだ。

 スイス・パンケミー社のロベルト・オット・シュワムレ社長は、北朝鮮投資について次のように語っている。
 「一部では北朝鮮を戦争の危険があるところだと言っているが、それは事実とまったく違う。平和は強力な国防力、強力な戦争抑止力によって保たれるものであるからだ。北朝鮮には核武力を主とする強力な武装力がある。その力で北朝鮮を侵略しようとする者を一気に打ちのめすことができるばかりか、侵略の意志をまったく持てないようにするのが重要な一面である。指導者と人民は一心団結している。これは世界中に知られているから、どの国も北朝鮮を侵犯して不安な情勢を惹起(じゃっき)させることができない。韓国で砲声がとどろいても北朝鮮の子供たちは安心して遊び、国民は歌を歌いながら創造と建設を続けている。北朝鮮で人民のための遊戯娯楽施設と、外国人も楽しめる膨大な施設を大々的に建設しているのは、北朝鮮にすでに永遠な平和が訪れていることを示す重要な証拠である」。
 この意見には賛否両論あるだろう。しかし、事実の一面を突いているのは否めない。米国の出方次第の面があるが、今後、米朝関係が良い方向で改善するならば、北朝鮮を魅力ある投資先と考え、進出する企業が増えることが予想される。北朝鮮の労働者の質はアジアでも上位に位置することも忘れてはならないだろう。
 北朝鮮の経済環境は、かつてのミャンマーを思い起こす。日本企業はミャンマーに対し、欧米の経済制裁に配慮して進出をためらってきた。その間に、中国、韓国の企業がミャンマーに進出し、「ラストフロンティ」としてミャンマーが見直された時には、「時遅し」の感があった。
 拉致事件は許されない事件である。もし、拉致被害者が今も生存しているなら、皆元気に日本へ戻って欲しい。だが、それを実現するためと称して、日本政府が続けてきた「圧力」一辺倒の政策は、効果があっただろうか。北朝鮮とは対話・外交交渉も視野に入れるべきだろう。                              安倍政権は最近(9月16日「拉致被害者救出国民集会」)も「圧力をかけながら、何とか対話に持ち込みたい」と強調している。しかし、日本がかけられる「圧力」とは何があるのだろうか。欧州、中東の一部の企業が北朝鮮を魅力ある投資先との評価をさせている中で、「圧力」という言葉を「武器」にするだけの政治姿勢は虚しくなる。

●政治的安定度と投資
 政治不安定によって政権交代が頻発し、ストや反政府デモ、サボタージュなどが続く国に、投資しようとする外国企業はない。どこかの国のように執権与党が数年で野党に下り、野党が執権与党になる現象も投資先としての魅力には欠ける。
 その意味では北朝鮮は安定している。この安定を「独裁・恐怖政治」と簡単に切り捨てられるだろうか。例えばシンガポール。この国の経済発展は、建国以来の一貫した人民行動党が率いる「開発独裁の賜物」とも言われてきた。労働者党などの野党は、存在したものの、その政治活動・言論は制限され、投獄や国外追放などの厳しい弾圧に晒されてきた。
 モンゴル・アジア製薬会社のグンガー・バヤルジャルガル社長は、北朝鮮の安定性を次のように分析している。
 「世界的に政治的安定度がいちばん高い国はまさに北朝鮮です。北朝鮮の指導者・金正恩第一書記は、アジアの平和が脅かされている時、小さな木造船に乗って最大のホットスポット(最前線)を訪れ、子供を愛撫し、平和守護のための重大措置を講じ、帰り道にまた国民の幸福のための建設現場を現地指導しています。そして、彼の廻りに集まる朝鮮人民の団結力が、最上の政治的安定と永遠な平和を保つ証拠ではなでしょうか」。
 もちろん、恐怖政治下でのストライキ、反政府デモの禁止に賛同できない。しかし、国の方向は国民が決めるものだ。
 中東に吹き荒れた「春の風」。風は嵐となって残されたのは混乱だけだったのではないか。もし、北朝鮮を投資先とし考えた場合、企業の関心は、政治制度よりも経済政策だろう。資本が保護され、契約の一方的変更や破棄がないことが重要である。かつて、シンガポールに進出した企業は、人民行動党の「開発独裁」の政治体制に躊躇したのだろうか。

 ●北朝鮮経営者の分析
 北朝鮮の富強製薬会社は、いま積極的に海外進出を展開している。全勝勲・社長は北朝鮮のなかで、数少ない海外経済事情通である。全勝勲・社長に北朝鮮の経済政策などを伺った。北朝鮮事情をよく知らず、偏見が見受けられる日本メディアの北朝鮮報道にさらされている方々らには、「手前味噌」に聞こえる部分があると思うが、全社長の説明をまずは、聞いてみていただきたい。
―北朝鮮の対外経済政策に不信を持つ企業も多いと思いますが。
 政府は対外経済分野において信用第一主義を最重要の政策としている。政府はこの政策を貫徹するため信用度の高い経済機関を評価し、国際的信用度の低い経済機関を批判・処罰し、国境で物資の搬・出入手順を大幅簡素化し、手続き時間の短縮、商品の品質向上で国際的競争力を高めている。
 特に、北朝鮮に進出する外国企業に対する政府の特恵的な奨励および保護措置と償還保障措置は国の信用度を高めることに大きく寄与している。
―投資先としての北朝鮮の魅力は。
 投資魅力地帯は外部の大きな援助や投資なしに自力で経済的復興が遂げられたところ(安定した内需)、国民の一般知識水準が高く(労働力の質が高い)、一般犯罪がないか、あるいは少ないところ(社会が安定しているところ)であるべきだ。その点で北朝鮮は、今まで60年間、戦争の廃墟の上に威力ある自立的民族経済を建設し、科学技術強国、核保有国、人工衛星保有国となった。
 我が国が外部からの大規模の援助や借款なしに、むしろ米国の絶え間ない経済制裁だけを受けながらもこのようなめざましい経済建設成果を収めることができたのは、偉大な指導者の賢明な指導があり、我が国の社会主義経済が優越であったからだ。
―北朝鮮のような社会主義・計画経済と資本主義は相容れないのではないか。
 資本主義市場経済は金融市場と証券市場で「ブル」(上げ相場であると見る者)と「ベア」(下げ相場であると見る者)との間の最大取引の合意相場を当日相場に発表することから回転が始まる。「ベア」は貨幣や証券を売却し、「ブル」は買い入れたが、翌日になると一人は得し、ほかの一人は損している。このように、資本主義経済は最初から強い投機性と矛盾をもって回転する。
 一部の海外メディアは数年前のアメリカでのサブプライム住宅ローン問題によって始まった金融危機がますます拡大されていると懸念している。報道によると最近、米大手自動車メーカーのゼネラル・モーターズ社の本拠地であるデトロイト市が破産を宣布し、アメリカの50州はいずれも財政危機に瀕しているという。アメリカの財政赤字は4年連続毎年、1兆ドルを越えているし、絶対多数の国民は最悪の貧困に陥っているが、億万長者の財産総額は昨年、その前年比8パーセント増で2兆500億ドルに上がったという。
 しかし、我が国(北朝鮮)ではすべての商品と経済機関の相場展望を科学的に分析、予見し、生産者大衆と広範囲に討議して作成した科学的かつ客観的で、動員的な計画に基づいて経済活動が行われている。
 そのため、経済的試練はあったけれど、経済危機や過剰生産、有価証券の乱発のようなものがなく、全般的生産力が国の経済発展にもっとも合理的に寄与している。たとえば、わが社(富強製薬会社)は20余年前から世界的な医薬品需要の増加を科学的に予見し、医薬品の開発に力を入れた。わが社で開発した「金糖―2注射薬」と血宮不老錠が世界的な人気薬品になり、30余カ国に大量輸出されている現実は我が政府の人間愛の政治と優越な経済制度による結実である。自前の技術と資材で人工衛星を打ち上げた奇跡的成果と全国のCNC化が高い水準で実現されている現実をはじめ最先端を突破し、世界的な覇権を握った実例は多くある。その上、12年制義務教育制によって人民の一般文化知識水準が非常に高くなり、一般犯罪がほとんどない我が国は、投資先としての魅力が増している。 
              
              (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

北朝鮮とブランド製品   (2013年9月20日)
 


「ポムヒャンギ」香水

「ポムヒャンギ」化粧品セット
 欧州ではブランド名を利用する経済・貿易戦略が注目されている。
ブランド製品は経済環境の変化による影響をあまり受けない。ブランド戦略とは、この無形資産を有効利用して業績を上げるのが目的だ。日本はまだ本格的な景気回復とは言えないが、欧州ブランド品の売り上げは好調で、日本市場を狙った商品開発や限定品が相次ぎ、大規模出店も進んでいる。
 意外なことだが、平壌から届いた情報によると北朝鮮でも「ブラン
ド」戦略が始まったという。といっても経済制裁下、欧州などのブランド製品は輸入できない。あくまでも、国産の「Made in D.P.R.Korea」 の商品だ。

 「ブランド」とは生産・製造者(社)が商品に取り付けていた商標やマークなどの付属物で、北朝鮮のものは、国営企業がほとんどのため、「ブランド」とは無縁だった。しかし近年、ブランドを意識した販売戦略が注目されている。その一つの例が、「ポムヒャンギ(春の香)」化粧品である。このブランド化粧品は、北朝鮮全地域を独占し、女性の間でもっとも人気を集め、信頼されていると言われている。
 「ポムヒャンギ」化粧品は、外国人観光客への販売も視野に入れ、外貨商店にも積極的に進出した。地元向けのローションとかクリームなどに限られていた商品を、数十種類に増やした。「ポムヒャンギ」香水は外貨商店の人気商品になっている。
 
 北朝鮮の悪口を「身上」にしている、ある独立系の情報発信集団が「北朝鮮で携帯電話規制」と、いつものデタラメ情報を流した頃、金正恩第一書記は、携帯電話の生産現場を視察していた。そこで、国産ブランド製品の生産が国民に民族的誇りと自負心を抱かせると興味深い発言をしている。
 ブランド価値を重視する傾向は、北朝鮮が「欧州式戦略」をある程度許容する、という何らかのサインではないか。

    (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

「戦勝」の意味  (2013年7月27日)


休戦協定に署名する両軍代表
 今年の7月27日は朝鮮半島で銃声が止んでからちょうど60年。日本では「朝鮮戦争」と言うが、韓国では「韓国戦争」や開戦日にちなみ
「6・25(ユギオ)戦争」、北朝鮮では「祖国解放戦争」と呼んでい
る。
 北朝鮮では休戦協定が締結された年(1953年)から毎年この日を
「戦勝記念日」と制定してきた。「休戦」でなくてどうして「戦勝」なのか、と思う。北朝鮮は、米国に勝利したということで「戦勝記念日」としているのだろう。
 しかし、北朝鮮はこれまで対米、対南(韓国)交渉で「休戦協定の
破棄」という文言を使っている。今年も3月に、「休戦協定を白紙に戻す」と表明しながら、「先制核攻撃を行う権利がある」として朝鮮半島の緊張は一気に高まった。

 「戦勝」なのに、いまさらなぜ「休戦協定」という言い方をするのか、と思う。「言葉は外交の武器」であるから、その使い分けには戦略的な意味が込められているに違いない。

 「戦勝の日」を控えた平壌は完全に祝日ムードに包まれているようだ。猛烈に降り注ぐ豪雨にも、この祝祭の熱気はなかなか冷めないと聞いた。ギネスブックにも記録された大マスゲームと芸術公演の「アリラン」は22日に開幕
し、「戦勝60周年」が今年のテーマになっている。
 平壌市内中心部にある金日成広場は、色鮮やかな花束を手にした平壌市民で溢れている。祝賀行事の練習に集まる市民で、予行演習は深夜まで続いている。練習に余念のない一人の市民に「休戦」を「戦勝」とするのか、意地の悪い質問をぶつけた。すると、「ハリネズミがトラを負かしたという昔話を知っているなら『戦勝』の意味が分かるでしょう…」との答えが返ってきた。
                                       
              (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

少子化と多胎妊娠   (2013年7月3日)
 


 日本では少子化が深刻な社会問題となっている。出生率は世界的にみても低水準である。日本社会は女性の就業継続と結婚・子育てとの両立が難しいうえ、女性の高学歴化と社会進出が進み、晩婚傾向が強まっている。また、男女とも未婚率は上昇する中、結婚したとしても子供は一人、という家庭が多く、それが出生率低下をまねいている。
 意外なことに、少子化傾向は北朝鮮でもある。国家が国民の育児、教育、医療を支える北朝鮮だが、国家財政は潤沢ではない。育児、教育、医療態勢が完璧に整っているとは言えないようで、「育児は大変」と考える若い夫婦が増えているようだ。

 「結婚しても仕事を続けるのは普通のことです」。北朝鮮で結婚と就業について尋ねると未婚、既婚にかかわらず女性は同じように答える。しかし、専業主婦という概念が殆どない北朝鮮だけに、仕事優先となると少子化は否めないようだ。
 訪朝するたびに同年代のガイドと話が盛り上がったのは「日朝子育て論議」だった。北朝鮮でも子育ては、お金と手間暇がかかる。一般論として言えば、北朝鮮の女性たちは子育てと仕事を完全に両立させているように思えるが、実情は必ずしもそうではないようだ。

 昨年末、北朝鮮のテレビで四つ子のニュースが放映された。生まれた時、体重1.4キロだった四つ子が、半年以上の入院の後、体重は5キロに成長し退院するという内容だった。北朝鮮では三つ子以上の多胎妊娠に対し、国が手厚く医療、育児で支援している。例えば、
 1.多胎妊娠(三つ子以上)の診断を受けた妊婦は住んでいる場所に関係なく、東平壌にある出産専門病院「平 壌産院」で出産する。
 2.生まれた子供と両親には国からの贈り物がある。母親と女の子には金の指輪、父親と男の子には銀製の小刀 がプレゼントされる。
 3.多胎児は体重が4キロになるまで、病院が育児保障する。
 4.多胎児は居住地の育児院で4歳まで国家の負担で育てられる。

 1〜3は問題ないだろう。いかにも北朝鮮的と思われるのが4だ。これは別の見方をすれば、4歳まで子供は両親と離れて育てられることになる。子供の成長に否定的な影響がでないか懸念される。しかし、北朝鮮の人々は、両親の負担軽減のための国家の福祉政策と、肯定的にとらえている。

                       (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

大学生と社会活動  (2013年6月27日)

 海外旅行は、名所旧跡を訪ねながらその国特有の庶民生活に触れることができれば楽しみは倍増する。北朝鮮観光は、簡単には庶民生活を体験することは難しいが、 それでも人民の暮らしぶりを垣間見ることはできる。日本と比べて一番違うのは 若者、特に大学生の生活とそれを取り巻く環境だ。
 北朝鮮では農村(集団農場)や建設現場で若者(大学生)をよく目にする。2012年、金日成主席の生誕100周年を前にした、平壌の中心部(倉田通り)で 高級マンションの建設がすすめられたが、多くの大学生が労働貢献している。

 以前、観光ガイドに「大学生は勉強に専念すべきでは?」と 尋ねたことがある。ガイドは「大学生が建設現場とか、農村現場で働くのは有益なことです」と答えた。そして、「強盛国家建設をめざす我が国では、大学生は 単なる労働力の補充ではありません。学校で習得した知識を労働現場で活用するのです。『労働新聞』は、倉田通りの住宅建設で、大学生が労働現場で科学的、合理的な発想を提起して建設工事の速度と質を高めることに貢献したと報じました」と誇らしげに付け加えた。
    
 金日成総合大学参観の時、図書館で出会った大学生は「農村支援」を控えていた。「農村支援は義務的なものですか」と聞くと「ちがいます。非現実的な理論だけではインテリになれません。 労働現場のなかで知識を打ち固め、社会人になってからも活用できる、 いわゆる『生きた知識』を体得する機会は社会活動です。自ら希望して 農村支援に出ます」。
 
 日本でも、東日本大震災の後、文部科学省は大学生らのボランティア活動参加の後押しを始めた。ボランティア活動で単位を認めたり、休学する場合は その間の授業料を免除したりすることなどを大学に要請している。
 勉強・研究と社会活動の融合が多くの国でも見直されている。強制があるのか否か、は分からないが、北朝鮮ではほとんどの大学生が社会活動の現場で貴重な体験をしていることは間違いあるまい。
                                       
                         (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

北朝鮮の外国語テレビ教育   (2013年6月14日)
 


 北朝鮮のテレビは、3つのチャンネルしかない。衛星放送で世界中に流される「朝鮮中央TV」のほか「マンスデ(万寿台)」、「リョンナムサン(竜南山)」チャンネル(局)がある。しかし、この2チャンネルは平壌以外の地域では視聴できず、放映時間も平日は午後5時から11時までに限られている。エネルギー状況は十分でなく停電もあるようなので、一日中放送を流す必要はないかもしれない。
 北朝鮮では各家庭でのインターネット接続は制限されており、国民の情報入手手段としてのテレビは重要だ。北朝鮮には視聴率調査といったものはないが、各局各番組とも高視聴率と思われる。平壌の3チャンネルはそれぞれの特色を生かし、どこかの国のように似たような演出、同じタレントばかりが出演するテレビ番組とは、ちょっと違
う。

 注目を集めているのが「リョンナムサン」局だ。「リョンナムサン」の由来は金正日総書記が卒業した金日成総合大学の校内にある山の名前からとったという。大学生を視聴ターゲットにし、実際に平壌の若者の人気を集めているようだ。放送は1週間のうち3日。科学技術、社会科学、外国語教育関連の番組が主に組まれている。学生は勤勉だ。科学、外国語のレベルは高い。街中いたるところで本を読む学生を見かける。外国語に興味を持つ子供も多い。「リョンナムサン」の外国語教育番組は工夫がされ、外国語を学ぶ番組の放送の後に外国語映画が字幕や吹き替えなしで放送されるという。
   
 英語の場合、ほとんどテレビ漫画が放映されるらしい。いわゆる「旧東側」諸国のものでなく、旧西側諸国のテレビ漫画だという。西側文化の浸透を厳しく制限し「閉鎖国家」と呼ばれている北朝鮮で、旧西側諸国のテレビ漫画が放映されているのは驚く。「リョンナムサン」が放送する外国語教育は英語、ロシア語、中国が中心だ。
 以前、日本語が注目された時もあったが、いまや不倶戴天の敵国言語となり、日本語へ興味を持つ若者はいないようだ。日本のテレビ漫画は多くの国で放送されている。北朝鮮でも放送される日が来るのか。
                       (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

古典恋愛物語とサーカス (2013年5月10日)

 朝鮮半島の緊張は、開城工業団地の閉鎖問題にも波及した。米韓合同演習は終わったものの、北は「一号戦闘態勢」を解いてはいない。その一方で、こんな話題もある。いま北朝鮮では「春香伝(チュニャンヂョン)」のサーカス劇が市民の間で人気を集めているというのだ。

 「春香伝」は朝鮮王朝時代の説話で、身分の低い妓生の娘・春香(チュンヒャン)と両班の息子・李夢竜(り・モンリョン)の封建的身分制度を越えた恋物語。朝鮮王朝時代の代表的な作品で朝鮮半島の北と南で映画やオペラにリメークされているが、サーカス公演の中で演じられるのはもちろん初めてという。朝鮮半島を代表する古典恋愛「春香伝」がどのようにサーカスに取り込まれるのか、好奇心に溢れた観客で、劇場は連日満員だ。
 オペラや映画なら、それとなく「春香伝」のシーンが眼に浮かぶ。しかし、サーカス公演となるとどのような情景になるのか、想像がつかない。平壌から届く話では、登場人物の感情を空・氷・水の中で表現しているようだ。恋に落ちた主人公が空中を飛びまわり、氷上を滑走し、シンクロナイズドスイミングまで披露する。

 北朝鮮のサーカは世界でも高いレベルを誇っている。特に「飛び交う娘たち」の空中曲芸は世界最高技能と評価されている。この高度なサーカス曲技が総動員されたのがこの公演のようだ。

 北朝鮮という国のシステムを考えると、一人の演出家の試みだけとは思われない。国の最高機関も認めた新しいジャンルのサーカス劇だろう。機会があれば動画(ビデオ)でも紹介したい。
 日・米・韓はミサイル発射への警戒心を解けない。一方、平壌では市民が古典恋愛のサーカス公演に魅了され、喝采の拍手は鳴り止まないという。「朝鮮半島は開戦前夜」との報道とは対照的である。北朝鮮は何を求めているのか。その意図は何であるのか。やはり首脳部以外には、分からない謎に包まれた国である。

   (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

戦時下の結婚式   (2013年5月1日)

 朝鮮半島情勢が緊迫化している。「弾道ミサイル」(北朝鮮は人工衛星 と言っている)打上げに端を発した国連の非難決議、それに反発した北の核実験に対し、制裁が強化された。米韓の軍事演習にB2爆撃機が投入されると、北は長距離ミサイル試射の構えをみせ、今度は、日、米、韓がミサイル迎撃態勢を とる。まさに「開戦前夜」といった雰囲気だ。
 しかし、これは北朝鮮情勢をめぐる「一つの顔」で、平壌には日常と変わらない「もう一つの顔」がある。結婚式を例にとろう。春は北朝鮮でも結婚式が 多い。この季節に訪朝すると結婚ホヤホヤのカップルに出会う。
 平壌での結婚式は、午前中は市内の景勝地を回りながら写真を撮る。平壌市内なら万景台(金日成主席生家)、万寿台(銅像)、そして噴水公園などで 写真を撮るが、これらは観光コースでもあるため、何組もの新 婚カップルに出会う。昼になると結婚式場か新婦の家に両家の親戚、同僚などが集まり、盛大にお祝いの宴が催される。食糧事情が懸念されているが、人民はいろいろ知恵を働かせ、宴用のごちそうを揃える。北朝鮮の結婚式に欠かせないのが冷麺だ。新郎新婦の末永い幸せと、長寿を祈念して、皆に振る舞われる。式が盛り上がると、新郎側と新婦側のゲストたちがカラオケ競争もする。これが、平壌の結婚式模様である。
 最近になって変わったのは、新婚カップルが記念写真を撮る場所だ。これまで「噴水公園」が一番人気だったが、いま「平壌民俗公園」に人気が集まる。この公園は1年前にオープンした、古代から現代に至る朝鮮の歴史的建造物を再 現した、テーマパークだ。民俗公園を廻れば、平壌市内の主な景勝地を背景に撮影したのと同じ、との思いらしい。
 若い男女が結婚と結婚式に夢を膨らませるのはどこの国でも普通のことだが、この緊迫した時期に、多くのカップルが結婚式を挙げていると聞くと、驚く人 も多いと思う。
                           (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

最前線視察と木造船   (2013年4月25日)
 


 北朝鮮の真意を探るには、報道の「行間を読む」ことが必要だ。映像でも活字の記事でも同じだ。最近気になったのは3月7日の報道である。中央通信は「金正恩第1書記が「(2010年11月の延坪島砲撃の最前線基地でもある)長在島防御隊と茂島防御隊を視察した」と伝えた。翌日には視察映像がテレビで放映されている。長在島と茂島は韓国・延坪島に近い。黄海の北方限界線(NLL)付近にある。この2つの島は、北朝鮮の地図では黄海南道康?郡釜浦の沖に小さな点として表記されている。
 視察の行われた3月7日は、国連安全保障理事会が公式会合を開
き、北朝鮮の核実験に対して制裁決議案を採択した日だ。制裁決議に対し、「延坪島砲撃を忘れるな」という北朝鮮の意思が読み取ることができる。また、映像の「行間」では金正恩第1書記が乗船した船が気になる。昨年8月にも同じ場所を第1書記は小さな木造船で視察している。
 今回の長在島、茂島の各防御隊視察にも同じように小さな木造船を使っている。 軍視察の目的は国際社会に対する「戦争準備」の意志表示と受取れるが、それにしては、国の首班であり、軍では最高司令官であり元帥の称号を持つ人物が、小さな船に乗艦したのはなぜか――興味が尽きない。最高司令官・金正恩元帥が乗艦した船の周りには護衛艦さえ見えなかった。

 北朝鮮は首脳部の護衛を絶対とする国である。となると、小さな船は、韓国を欺くための意図的な戦術、演出なのか。北朝鮮の歴代指導者はいつも質素な生活を唱え、周囲にも倹約を訴えた。金正恩第1書記もやはりこの一年間、質素さを標ぼうし、国民の視線を気にしてきた。市民と分け隔てなく席をともにして鑑賞したコンサート、護衛兵のいない参観、遊園地の完工式で外交官らと一緒にアトラクションを楽しむ姿、子供たちに囲まれた少年団大会、兵士と肩を組んで撮った記念写真……。
 これらの映像は「金正恩第1書記の民心掌握を意図とした欺瞞映像だ」との指摘もある。欺瞞には強要や演出が必要だ。これらの映像に写りこんだ北朝鮮の人民の笑顔、感激の涙は演出なのだろうか。外交官は強制され遊園地の乗り物を楽しんだのか。
 北朝鮮は孤軍奮闘、米国を中心とする国連の制裁に立ち向かっている。北朝鮮にはロケットもあり、核実験をやる技術もある。国連が制裁を強めても、北朝鮮の選択を阻む効果は十分に発揮されずにいる。むしろ、北朝鮮の強硬姿勢を加速化する結果だけを招いているのではないか、と思う。
 いま、世界中でテロの脅威が心配されている。標的にされそうな国では、元首はもとより閣僚クラスでも護衛官に囲まれて移動していると聞く。その中で、ロケットも核も持つ国の最高指導者兼軍の最高司令官が、無防備な船で最前線を視察し、市民の中に飛び込み、微笑んでいる国が北朝鮮である。この指導者の余裕はどこから来るのか。敵対国に対する演出か、ただの強がりだけなのだろうか。しかし、その国が、有事の際は米国、日本、韓国を標的にすると公言し、緊張を激化させているのは事実だ。
                        (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

「銀河9」の謎  (2013年4月2日)


 昨年末、平壌の木蘭館で「ロケットの打上げ成功」に貢献したスタッフらを慰労する祝賀宴が催された。金正恩第1書記夫妻や幹部も宴会に出席、牡丹峰楽団の公演も披露された。その舞台の両側に立てられた衛星模型の飾り物が謎を呼んでいる。北朝鮮が打上げたロケットは「銀河3」であったが、模型には書かれたのは「銀河9」だったからだ。「銀河4」「銀河5」でもなく、「銀河9」なら、北朝鮮はすでに6台のロケットを完成させていることになる。
 祝賀宴の映像が世界に流れることを意識して、あくまでも演出の一つとして「銀河9」の模型を並べたのかだろうか。
 こんな推測もある。「制限なくロケット発射を続けるという意思表示だ」というのだ。数学では0から9までの数字で、すべての数量を無限に表記できる。100とか1000よりも、基礎的な数字(0〜9)の中で一番大きい「9」使うことで永久的にロケット発射が続くことを意味した、というものだ。北朝鮮が打上げた1台のロケットは、国際社会を揺るがせている。

 祝賀宴の様子は朝鮮中央テレビで放映された。放送ではロケット製作に携わった科学者がインタビューに答えていた。「金正恩第1書記の愛と信頼にもっと多くの衛星打上げで報いたい。私達は『銀河9』まで、きっと打ち上げるつもりだ」。この発言には虚勢は感じられない。確信に満ちた雰囲気だった。科学者の発言は北朝鮮指導部の確固たる決意表明かもしれない。
 もし、模型「銀河9」の登場による、さらなる6台のロケット保有が示唆されたうえ、これからも発射が続くなら、国際世論は動揺するだろう。舞台に飾られた模型の文字だけで、世界の耳目を集める北朝鮮のしたたかさに、世界は相当な覚悟で向き合う必要がある
                         (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

子供の「涙」  (2013年3月25日)


 「北朝鮮は人権状況が劣悪だ」として国連からたびたび改善指摘を受けている。金正恩第1書記の新体制になって改善の動きはあるのか注目されてきたが、少なくとも「イメージ一新」に力を注いでいるようには思える。

 昨年6月、2万人の子供を全国各地から平壌に招待し、「朝鮮少年団創立66周年」の祝賀大会を催した。朝鮮少年団には、小学校3年から中学校3年、9〜13才の児童・生徒が加入している。この大会は 金正恩第1書記が名実ともに国家指導者の地位についてから半年後に開かれたもので、内閣や労働党の幹部が子供たちの宿泊施設を訪れるなど異例続きで、労働新聞も「空前絶後の特大事変」と伝えた。

 北朝鮮には「領袖福」と呼ばれる言葉がある。金日成主席、金正日総書記、金正恩第1書記が、代を継いで人民に向ける愛情のことらしく、北朝鮮独特の言葉だろう。「指導者の愛情と人情味」に触れると感極まると涙ぐむのが、北朝鮮人民でる。子供たちが涙を流す場面がテレビニュースなどで見受けられるが、「あれは演出だ」と指摘する声もある。その真偽はよくわからないが、子供の涙まで演出されるなら、空恐ろしいと感じる。
 子供の涙について、金日成主席は回顧録「世紀とともに」で次のように述べている。「涙は、自分を愛するか、愛することのできる人たちへの、子どもの精一杯の訴えである。人々がその涙に胸をしめつけられ、耳を傾けるのは、子供を慈しみ見守るのが人間の本性のうちでももっとも基礎的な本性であるからである」。
                        (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

北朝鮮とデモ  (2013年3月4日)

 北朝鮮は、昨年末、国連食糧農業機関(FAO)に「食糧不足国
家」と再指定された。その一方で、北朝鮮は、ここ数年、平壌市内に高層ビルを建て、公園等の公共施設の拡充をはかっている。また、数十億の資金を投入しロケット発射を続けた。
 こうしたアンバランスな現象に対して、日本や韓国のメディアは「平壌の発展は見せかけで、地方は十数年前から配給が中断し人民生活は逼迫している」と報道してきた。そして、多くの国では、反政府デモが多発し国内は混乱、体制崩壊へ向かうのが一般的だが、北朝鮮がそうならないのは、「締め付けで体制を維持している」と解釈してき
た。
 北朝鮮から報道されるデモ(=市民の集団的意志表示)は、反政府的なデモではなく、指導部の死守、制度の守護を呼びかけるデモだけだ。最近では、ロケット打上げの国連の制裁決議を糾弾する数十万規模のデモ・集会が平壌市内の金日成広場であった。 
 慢性的食糧難と言われる北朝鮮で、人民が当局(権力)に対し、生活改善や地位向上に向けた、「中東の春」のような民衆の過激な行動、デモが何故ないのか、不思議に思う人は多いだろう。

 中東の春は、2010年から2011年にかけて広まった民主化運動で、1968年チェコスロヴァキアで起きた改革「プラハの春」になぞらえた表現とされる。
 この「春」の風は、チュニジアで2010年12月に吹きはじめ、「ジャスミン革命」により、チュニジアでは23年続いたベンアリ政権に終止符が打たれた。「春」は中東の盟主・エジプトにも伝播し、2011年2月ムバラク政権を崩壊させ、リビアでも政権打倒の動きが激化した。日本の外務省は「フェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)によって連帯と情報共有を図り、かつてないスピードで国境を越えて民主化運動が拡大していった」(外務省HPより)と分析した。さらに一部メディアはジャスミン革命や「中東の春」の波が、中国や北朝鮮にも影響を与える、と希望的に報道した。しかし、中国や北朝鮮の指導部は、中東諸国の政権よりも注意深く、したたかだ。社会構造も違う。SNSを当局が制御でき、場合によっては一瞬にして断ち切るのが中国、北朝鮮である。

 「中東の春」の後、現地に残ったのは、混乱状態でしかなかった。「春」が過ぎたあと、灼熱の夏が続いている。このことを北朝鮮当局も人民も知っている。金正日総書記の急逝後、新しい指導体制に移行したが、国民生活の向上は、足踏みの状態にある。しかし、北朝鮮のどこでも見られる「一心団結」のスローガンは人民に体質化されてい
て、「情報」で彼らの心を変えさせるのは難しいのが現実だ。
                         (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

今年の北朝鮮は…?   (2013年2月25日)

 北朝鮮の新年は、牡丹峰楽団の公演で幕をあげた。
金正恩第1書記は2012年の大晦日に駐朝外交代表を招いて祝杯をあげ、また、新年を迎える際は、国民とともに牡丹峰楽団の公演を鑑賞したのだ。北朝鮮としては歴史に類例のない異例なことだった。

 昨年7月、初公開された牡丹峰楽団は、北朝鮮の国民だけでなく世界から注目を集めた。未だにその映像が話題になっている。派手に点滅する照明、超ミニスカートの演奏家、ボーカルのエレガントな衣装、それに映画「ロッキー」のテーマ曲とミッキー・マウスキャラクターまで登場した。世界的なヒット曲である「マイ・ウェー」の演奏もあり、これまでの北朝鮮のイメージを一転させた。いまにも「自由の世界」へ転向するのか、と思わせたものだった。この牡丹峰楽団が大晦日に再び登場したわけだ。公演中、観客も興奮して歓呼し、演奏に合わせて手を振りながら踊る一幕もあった。北朝鮮特有の演出・構成も復活した。金日成主席が存命の時、国民の間で愛唱されていた「世にうらやむものない」の演奏で始まり、世界名曲紹介では旧ソ連の「正義の歌」と中国の「祖国を歌う」が演奏された。旧ソ連や中国で民族主義、愛国主義を鼓舞してきた歌をボーカルが熱唱する。昨年7月の演出が新・北朝鮮なら大晦日公演は旧・北朝鮮方式かもしれない。

 いずれにしても、元旦午前0時に幕をあげた牡丹峰楽団の公演は、観客の熱狂で盛り上がり、国民の心をつかもうとする演出がにじみ出ていた。今年、北朝鮮が進む方向を暗示しているのではないか、と思う。
                          (アジア・ウオッチ・ネットワーク 小堀 新之助 )



魑魅魍魎(ちみもうりょう)のニュース空間


国境地帯で入手できる北朝鮮の筆記具
  北朝鮮に関する限り、多くのメディアは事実を伝えるべき報道機関の役目を果たしていない、と感じる。内容の検証も行われず、疑わしい情報がこれほど氾濫してよいものか。

◆「北朝鮮内部情報」は美味しい商売?
 北朝鮮情報は、あやふやな「北朝鮮筋」、脱北者、体制打倒を目指す団体から出るものが目立つ。「極秘情報」「内部情報」にメディアは飛びつく。 北京で聞いた話だが、中朝国境地帯、吉林省などでは、偽北朝鮮情報が格好の商売になっているらしい。北朝鮮が近いので北朝鮮の紙やインクは簡単に入手できる。そこに、芋か大根で作った「それらしい印」を押せば、簡単に「北朝鮮内部資料」となり、日本のメディアが大金を払って購入する、とのこと。いい加減な北朝鮮情報が「打ち出の小槌」とは、恐ろしい話だ。記者は裏も取らず、検証も思索もなしに、記事にしている、としか思えない。

◆謝礼目当ての「オーバーな話」/自称・元工作員、脱北者?
 かつて北朝鮮の内部事情を取材する「現場」について、こういう指摘があった。情報入手に一番近い第一取材現場は日本、第二は米国、第三は中国、第四は韓国。つまり、日本は、ほかの「現場」と比べると、朝鮮総連や情報機関組織などを窓口に北朝鮮の情報に接することができ、その信頼度も高い。米国はあらゆる情報網を駆使して、北朝鮮情報を得ようとしている。玉石混淆もあるが…。

 中国の政府・党は、北朝鮮事情を知り得ても、社会主義体制下で記者らがその情報を取得することは難しい。最後は韓国。 北朝鮮に関して、おびただしい情報を発信するが、誤解、思い込みでミスリードする例も見られた。この状況が劇的に変化するのが、金正日総書記と韓国の金大中大統領との首脳会談からだ。良好な南北関係を背景に、政府・民間レベルでの交流が進み、それに連れ、的確な情報も韓国にもたらされた。地理的な面を含め、「韓国が第一現場」となり、日本と並んだ。しかし、韓国からの北朝鮮情報は、いまも危うい面も持つ。脱北者の「証言」をもとにした情報だ。
 拉致被害者の写真を見ると、必ず後から思い出し、コメントしてきた。「北朝鮮で見たことがあります。生きています」と、関係者にとっては希望をつなぐ証言をする。拉致被害者は皆元気に日本へ戻って欲しい、と願わない人はいまい。だが、そのためには北朝鮮と外交交渉をしなければならない。戦争という強硬手段は使えないのだから。外交では相手国の正確な情報を持ってこそ、有効な交渉が展開できるはずだ。
 ところが「脱北者証言」を日本のメディアは、そのままに流す。まさに「言い放し」である。正確な情報より「誤報」「捏造」の方がはるかに多い気がする。そして、市民には、ゆがんだ「北朝鮮像」がこびりつくようになる。その一つが「孤立国家」というイメージの定着だ。
 「北朝鮮は国連に加盟し、主要国で国交を樹立していない国は、米国、日本、フランスだけ」-----。この事実を知ると驚く人が、非常に多いのだ。メディア関係者は脱北者の「証言」が「オーバーな話」と感じたら検証・取材して、正確な情報かどうかを確かめる努力をすべきだろう。今の北朝鮮情報、報道は魑魅魍魎の世界だ。

                  (アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )

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