国境地帯で入手できる北朝鮮の筆記具
北朝鮮に関する限り、多くのメディアは事実を伝えるべき報道機関の役目を果たしていない、と感じる。内容の検証も行われず、疑わしい情報がこれほど氾濫してよいものか。
◆「北朝鮮内部情報」は美味しい商売?
北朝鮮情報は、あやふやな「北朝鮮筋」、脱北者、体制打倒を目指す団体から出るものが目立つ。「極秘情報」「内部情報」にメディアは飛びつく。 北京で聞いた話だが、中朝国境地帯、吉林省などでは、偽北朝鮮情報が格好の商売になっているらしい。北朝鮮が近いので北朝鮮の紙やインクは簡単に入手できる。そこに、芋か大根で作った「それらしい印」を押せば、簡単に「北朝鮮内部資料」となり、日本のメディアが大金を払って購入する、とのこと。いい加減な北朝鮮情報が「打ち出の小槌」とは、恐ろしい話だ。記者は裏も取らず、検証も思索もなしに、記事にしている、としか思えない。
◆謝礼目当ての「オーバーな話」/自称・元工作員、脱北者?
かつて北朝鮮の内部事情を取材する「現場」について、こういう指摘があった。情報入手に一番近い第一取材現場は日本、第二は米国、第三は中国、第四は韓国。つまり、日本は、ほかの「現場」と比べると、朝鮮総連や情報機関組織などを窓口に北朝鮮の情報に接することができ、その信頼度も高い。米国はあらゆる情報網を駆使して、北朝鮮情報を得ようとしている。玉石混淆もあるが…。
中国の政府・党は、北朝鮮事情を知り得ても、社会主義体制下で記者らがその情報を取得することは難しい。最後は韓国。 北朝鮮に関して、おびただしい情報を発信するが、誤解、思い込みでミスリードする例も見られた。この状況が劇的に変化するのが、金正日総書記と韓国の金大中大統領との首脳会談からだ。良好な南北関係を背景に、政府・民間レベルでの交流が進み、それに連れ、的確な情報も韓国にもたらされた。地理的な面を含め、「韓国が第一現場」となり、日本と並んだ。しかし、韓国からの北朝鮮情報は、いまも危うい面も持つ。脱北者の「証言」をもとにした情報だ。
拉致被害者の写真を見ると、必ず後から思い出し、コメントしてきた。「北朝鮮で見たことがあります。生きています」と、関係者にとっては希望をつなぐ証言をする。拉致被害者は皆元気に日本へ戻って欲しい、と願わない人はいまい。だが、そのためには北朝鮮と外交交渉をしなければならない。戦争という強硬手段は使えないのだから。外交では相手国の正確な情報を持ってこそ、有効な交渉が展開できるはずだ。
ところが「脱北者証言」を日本のメディアは、そのままに流す。まさに「言い放し」である。正確な情報より「誤報」「捏造」の方がはるかに多い気がする。そして、市民には、ゆがんだ「北朝鮮像」がこびりつくようになる。その一つが「孤立国家」というイメージの定着だ。
「北朝鮮は国連に加盟し、主要国で国交を樹立していない国は、米国、日本、フランスだけ」-----。この事実を知ると驚く人が、非常に多いのだ。メディア関係者は脱北者の「証言」が「オーバーな話」と感じたら検証・取材して、正確な情報かどうかを確かめる努力をすべきだろう。今の北朝鮮情報、報道は魑魅魍魎の世界だ。
(アジア・ウオッチ・ネットワーク 北朝鮮取材班 )